VERNIERバーニア
Treasure Ⅰ 運命の出逢い

Part Ⅱ


暗い緑の森の中。その建物は高い塀と高圧電流が流れる電線に守られて建っていた。表向きは華やかなピガロスだったが、裏を返せば、こんな顔も持っていた。自由の星。快楽の星。銀河系随一の歓楽街と称されるこの星には、様々な犯罪者も集まってくる。酒や賭博、薬にゲーム、女とのトラブルも耐えない。いくらここは自由な星で何をしても構わないと言っても、あまりにも悪質な場合には、地元警察や連邦軍が呼ばれ、連行される。そして、調査の結果、問題ないと判断されれば晴れて自由の身になれる。だが、まかり間違えて有罪ともなれば極刑が待っている。

ここはそういう者達を連行し、処分する場所だった。それでも、監視の者や警備員に賄賂でも掴ませれば、かなり優遇してもらえるし、場合によっては融通を利かせて裏口からそっと逃してもらえることさえあった。が、ここは惑星の未開の地。道はなく、森には凶暴な獣も存在する。武器を持たず、徒歩でアルロスまで辿り着けた者はまだ存在しない。金を掴まされた警備員はそれを承知で扉を開けているのだ。金は厚みがあるほどよく、吹っかけたとしても、あとでクレームの付きようもない。一度味を締めたら止められない美味な商売だった。

しかし、ここに連れて来られるのは何もピガロスの人間ばかりではない。近隣の星で重大な犯罪を犯した者も送られて来る。ここは処刑専門の刑務所なのだ。囚人は男女を問わず狭い独房に収容され、刑が執行されるまでの間、取り調べと称した拷問や強姦といった事例もあとを絶たなかった。
表社会から隔離されているこの施設に勤務している者達は皆飢えていた。退屈しきった職員達にとって死刑囚達は都合のいい玩具でしかなかった。

「サラ バートライト」
警備員が呼んだ。彼女は他所の惑星から護送されて来た第一級犯罪者だった。そして、今、まさに刑が執行されようとしていたところなのである。彼女は手首を縛られ、身体は椅子に固定されていた。そして、お情けにアイマスクを付けられている。あとは合図と共に死刑執行人がその身体に向けて銃弾を浴びせるだけだった。
その方法は残忍で、身体にすべての弾丸が撃ち込まれたあと、体は埋葬されることもなく、塀の外へゴミのように投げ捨てられる。だから、施設の周囲にはいつも獰猛な獣達が血の臭いに釣られてうろついていた。そうしていつの間にか自然の中で生きる獣とここで暮らす人間達との間にルールが出来た。つまり、塀を越えた人間は餌として自由に食らってもよいという暗黙のルールだ。そして、そのルールはことあるごとにきっちり遂行された。

「来い。刑の執行は延期だ」
監視員の男が言った。
「延期?」
彼女が呟く。
「中止ではなく、延期だと言うのか?」
目隠しされたまま彼女が続けた。淡いブロンドの髪は短く刈られ、みすぼらしい灰色の囚人服を着せられてはいたが、豊かな胸はその胸のボタンが引きちぎれんばかりに突出していた。女物の下着さえ与えてもらっていなかった彼女の乳首が形よく上向いているのがわかる。それを見て、監視の男はごくりと生唾を飲んだ。
「私は無実だ」
サラが言った。しかし、監視員の関心は、言葉よりもむしろ胸の方に向いていた。
「そんなことはどうだっていい。さあ、立て! さっさと歩いて独房まで行くんだ」
手錠の上から後ろ手に縛ったまま縛りつけてあったロープを椅子から解くと高圧的に命じた。

「さっきの音は何だ? 爆弾でも落ちたか? それとも……」
彼女が尋ねた。
「おまえには関係がない。とっとと歩け」
凄まじい音だった。恐らく何か巨大な物が激突した音……。衝撃と小さなコンクリートの破片が彼女の頬や身体にもばらばらと当たった。
(道もないのに、無謀なエアカーでも突っ込んできたというのか?)
目隠しされたままなので、サラは慎重に歩きながら思った。エアカー。だが、実際はそんな物ではなかった。宇宙船が突っ込んできたのだ。


「どひゃ。おったまげたな。ありゃあ一体何だい? ピンクの巨大なモンスター?」
緑のポンコツエアカーに乗って来た少女が天井に空いた大きな穴から顔を出して言った。
「ま、あれのおかげでここまで怪しまれずに来れたんだから、感謝しとかないとね」
そう言うと彼女はひょいとエアカーの屋根の上に飛び乗った。
「にしても、兄貴は一体何処にいるんだろ?」
と、周囲を見渡す。

年の頃は16、7才。前だけ小さい鍔が付いたブカブカの帽子を被り、短いデニムのキュロットの下からはむっちりとした白い太腿が覗いている。ポケットの沢山付いた短い迷彩色の上着。そのポケットからはペンチやハンマーがはみ出している。金色掛かった大きな瞳と赤いパサパサとした髪を無造作に編んでいる様は何処か俊敏な獣のようなイメージを抱かせた。そして、じゃらじゃらとしたわけのわからない機械の部品やボルトを繋いで、飾りのように首から掛けている。
ローリー ガルヴィッチ。
それが彼女の名前だった。アルロスの繁華街のバルヴィー団のメンバーだ。

始めは7人いた仲間もだんだんと捕まったり殺されたりで人数が減り、遂に残ったのは彼女と団長のアドリー ガルヴィッチだけになってしまった。兄貴といっても二人は本当の兄弟ではない。幼い時に捨てられていたロリを彼が拾って育てたのだ。以来、彼女はずっとアドリーのことを兄貴と呼んで慕っていた。
しかし、そのアドリーが警察に連れて行かれた。しかも、彼女を庇って……。車に押し込められる寸前、彼は帽子を投げて寄越した。それが、今、彼女の頭に乗っているこの帽子なのである。ロリはそっとその鍔に触れてみた。
「兄貴のにおいがする……」
それから、ロリはずっとアドリーが連れて行かれた場所を探した。そして、今日、ようやくここまで辿り着いたのだ。
「待ってろよ、兄貴。今、おれが助けに行くからな」
そう言うとロリはピョンと車から飛び降りた。


その頃、キッシングラバー号から降りて来た二人は停泊中の船から燃料を分けてもらうことにした。
「おい、急げ! 邪魔な連中を10人ばかり黙らせといたが、早くしないと次が来る」
ダナが言った。
「だったら、ちょっと手伝ってくれ。これって結構重いんだ」
「何を言うか。それくらい、一人で持てよ。男だろ?」
「あ、そういうこと言ってはいけないんだよ。人間は皆、平等。僕、ひ弱だから、おしりちゃんより重いおしりなんて持ったことないんだからね」
などと言って笑う。
「ふざけるな! このあたしを片手で持ち上げてたんだ。それくらい持てるだろう?」
「そりゃあ、愛の力があってこそだよ。おしりちゃんはあったかいけど、固形燃料は冷たいもの」
「臨海に達すれば熱くなるさ。望みとあらば、今すぐそこの安全装置を解除してやる」
「いいよ、結構。あ! あんな所にいい物見っけ!」
彼はそちらの方へ駆けて行く。
「おい、待て! これをあたしに持たせようってのか?」
残された荷物を見てダナが叫ぶ。と、彼はもう向こうの端まで行って無尽のエアカーのドアを開いていた。それは先程、ロリが乗って来た車だった。

「あはは。こいつは随分風通しがいいな。でも、何とか動くみたい」
彼は、あちこち穴が空き、分解寸前になっていた車を操作してダナの近くに止めた。
「これで運べば楽チンだよ」
と、天井に空いた穴から頭を出して笑う。
「いいねえ。あたしはそういうの見ると無性にぶっ叩きたくなるんだよね」
ダナは、足元の燃料を持ち上げると彼の頭を目掛けて振り下ろした。が、彼は素早く引っ込め、後ろの窓からまた顔を出す。
「ははは。こっちこっち」
彼はうれしそうだったが、ダナは真面目に言った。
「悪乗りしてる場合か! 早く荷物を積んじまって、こんなとこからおさらばしようぜ」
「そうだね」
彼はドアを開けて荷物を積んだ。そこへ、突然、誰かの悲鳴が響いて来た。
「あ! あの声は女の子だ」
言うが早いか彼は一目散に駆けて行く。
「おい!」
ダナが呼んだ。が、彼はちらと振り向いて言った。
「あとはよろしく」
「なにがよろしくだ! このくそったれめ」
ダナは悪態を突いた。が、結局、彼女はそれらを一人で船に運んだ。


悲鳴を上げたのはロリだった。アドリーの痕跡を追って塀の近くまで来た時、突然、獣に襲われたのだ。それは黒豹の身体に鷹の爪と恐竜の尾を付けたような奇妙な生き物だった。それはここ、ピガロスに土着の生き物だった。肉食で獰猛な彼らの好物は、処刑場から放置された人間。獣は舌なめずりし、仲間を呼んだ。何処からかもう2頭が現れた。その一頭の前足に絡みついた銀色のチェーン。少し潰れてはいたが、先端に細い針金の星が見える。
「あれ……兄貴のだ……」
ロリの頬から血の気が引いた。が、ウウッと唸り声を上げて血走った目でこちらを見るその獣にロリは強い怒りを覚えた。

「畜生っ! 兄貴の敵!」
飛び掛ってきたそいつにロリはドライバーを向けた。が、獣の身体は固く、ドライバーはおろか、彼女の身体ごと弾き飛ばされてしまう。狼狽する彼女。が、獣は容赦なく襲う。ロリも必死に脇へ跳んで避けた。が、今度は反対側から別の獣が襲う。これではどっちへ逃げようと挟み撃ちだ。
「くっ!」
ロリは咄嗟にハンマーを取り出し、正面の獣の鼻っ柱を狙ってばんと振り下ろした。きゃんと獣は鳴いて後ずさった。しかし、もう一頭いる。そいつが不意を突いて彼女に飛び掛かった。寸でのところでかわしたものの獣の太い尾に弾き飛ばされ、ごつごつとした岩場に叩きつけられた。
「痛ゥ……!」
獣はギラリとした目で彼女を見た。彼ら独特の臭気が漂い、ピチャピチャと舌なめずりする音が響く。獣は彼女に襲い掛かった。が、ロリはまだ体勢を立て直せない。
「だめだ! やられるっ!」
そう思った時だった。キャインと甲高い悲鳴が左右から聞こえた。見ると黒髪の男が蹴りとパンチで獣3頭をぶちのめしていた。
「す、すごい! 素手で……」
倒れたままの状態で彼女が感心したように男を見た。

「ありがとう、あの、おれ……」
ロリが何と言って感謝の気持ちを伝えようかと思案していると、突然、男が膝を突き、ロリの太腿に抱きついて言った。
「わあ。何てむちむちした立派な太腿ちゃん……。それに、とっても柔らかーい!」
黒髪の男はそう言って頬を寄せ、彼女の太腿に何度もキスをした。
「くっ……何てぇ野郎だ! この変態男め! ええい! 放せ!」
じたばたと騒ぎながら暴れる彼女を無視して、男はうれしそうだった。
「いいねえ。この感じ。たまらなーい。ねえ、僕、君の太腿を枕にして眠りたいな。きっと素敵な夢が見られると思うの」
「何だよ。いやだ。こいつキモ……」
あまりのことに唖然としている彼女。
「あはは。そんなに見つめちゃって可愛い! やっぱり君も僕のことが好きなんだね? いいよ。それなら、一緒に行こう。僕達の愛の船。キッシングラバー号へ……」
「キッシングラバー号だって? やだ。やっぱこいつ頭がおかしいんだ。くそっ! 放せ!」

ロリは必死に逃れようと足で蹴ろうとした。が……
「痛っ……!」
突然、右足首に激痛が走った。獣と闘った時、捻挫したらしかった。
「大丈夫。これならすぐによくなるよ。でも、今は無理して歩かない方がいい。僕が抱っこして行ってあげる」
そう言うと彼はロリを抱いて行こうとした。
「あ、待って! あれを……」
ロリが指差す。それはあの星型のチェーンだった。男は獣の足に絡んだそれを簡単に解くとそっと彼女の手に掛けてやった。
「ありがと……」
彼女はそう言ったが、手の中には何の温もりもなかった。アドリーも、あの獣達も……。みんな時空の向こうへ逝ってしまった……。


「おしりちゃーん。見て! おみやげ」
そう言うと彼は抱いていたロリを高く掲げた。
「おみやげって……! おれを何だと思ってる?」
腕の中でロリが暴れた。
「あはは。そんなに動いたら落ちちゃうよ」
彼は笑ってシートに下ろす。
「仲良くしてやってね。おしりちゃん。この子は太腿ちゃん」
「な……!」
「ふ……!」
二人が同時に叫ぶ。
「あたしはダナ」
「おれはロリだ」
そして、同時に叫ぶ。
「名前で呼べ!」
「あはは。いいじゃない。おしりちゃんも太腿ちゃんも最高だよ」
と言って男が笑う。と、そこへ通信が入ってきた。
「貴船の所属は何処に有るか? 至急、船長及び乗組員の名簿を提示せよ」
「どうするんだ?」
ダナが訊いた。
「ちょっと適当にからかっててよ。僕、忘れ物を取って来るから……」
そう言うと彼は大急ぎでコクピットを出て行った。


独房に連れて来られたサラは、監視の男から執拗に猥褻な言葉を投げかけられていた。しかも、そいつは外の混乱に乗じて彼女の身体に触れようとして来たのだ。
「くっ! 手を放せ! さもないと……」
アイマスクを取っていた。サラは美しい青い瞳をしていた。その目がきっと鋭くそいつを睨む。
「ほう。いい顔だ。だが、ここじゃ助けなんぞ来ないぜ。何しろここはおれ達の城なんだからな。へへへ。これからたっぷり楽しませてもらうからな」
男は自分のズボンのファスナーを下ろすと彼女の胸のボタンを外そうとした。
「や、やめろ……!」
壁に押し付けられて彼女が苦痛の悲鳴を漏らす。
「ひひ。いいじゃねえか。これからおれとさ……」
その時。背後からガツンと男の頭を殴りつけた者がいた。ぎゃっとそいつは悲鳴を上げて崩折れた。

「ふう。間に合ってよかった。さあ、僕が来たからにはもう大丈夫。おいで。手錠を解いてあげるよ」
彼女より少しだけ背の低い黒髪の男がやさしく言った。
「それじゃあ、私が無実だと証明されたのか?」
「ああ。信じてるとも。君はいつだって正直だ」
じっとその瞳を見つめて言う彼。サラはあまりのことで胸が熱くなっていた。
「あなたは?」
「僕? 僕は通りすがりのトレジャーハンター」
「トレジャーハンター?」
「そう。君をゲットしに来た」
素早く彼女を解放して言った。
「ああ。僕の理想のお胸ちゃん。ようこそ僕のために……」
彼のその台詞で微笑みかけていた彼女の表情が固まった。

「アハン。大好きだよん。僕のお胸ちゃん」
ぎゅっと抱きついてその胸にキスをする。
「うっ。こら、放せ! 私はおまえのための胸など持ち合わせてなどいない」
彼女は必死に彼の腕から逃れようとしたが、無理だった。髪を引っ張ろうと顔を叩こうと一向に放してくれない。一難さってまた一難。サラは途方に暮れた。が、突然、背後から怒号が飛んだ。
「侵入者だ! 奴を捕まえろ!」
「殺しても構わん。殺せ!」
しかし、男はさっと彼女を抱えると床を蹴った。
「いい子だね。お胸ちゃん。目を閉じてて」
そう囁くと次の瞬間、彼は警備員達の方へ光子弾を投げた。目も眩む閃光が広がる……。警備員達が右往左往している間に彼はまんまとそこから脱出し、キッシングラバー号に滑り込んだ。


「ハイ! みんな、お胸ちゃんも連れて来たよ」
そう紹介する彼のせいで、また三者三様の会話が入り、彼は笑いながら操縦席に着こうとした。
「ちょっと待て!」
その襟首を掴んでダナが止める。
「貴様はいかん。また何処かに不時着なんてことになったら命が幾つあっても足りないからな」
「えーっ? 僕ってこれでも宇宙船の免許はA級ライセンスなんだよ」
「何がA級だ。信じられるか! 貸せ! あたしがやる」
ダナが言った。
「でも、あんた操縦できんの?」
ロリが不安そうな顔をする。
「できるさ。まだ若葉マークだけどさ」
「若葉マークだって?」
皆が顔を見合わせる。

「あの、よかったら、私、ライセンスはA級ゴールド免許です」
サラが言った。
「なら、おれ、こっちの胸でかい姉ちゃんの方信用するわ」
ロリの言葉にダナが憤慨するが、追っ手が差し迫っていたのでそれで行くことにした。そういう訳でサラが操縦。ダナがレーダー、一応ロリが動力ボックスに座ることにした。そして、彼が攻撃兼副操縦ということでキッシングラバー号のコクピットは丁度上手く定員に達したのである。
「それじゃ、行くよ。キッシングラバー号発進!」
彼の合図で船は宇宙へと飛び出して行った。


それから2回目のワープを終えた頃だった。突然、ダナが言った。
「お? 何だ、これ? 妙な電波を捉えたぞ」
「救難信号だ。キャプテン。救助に向かいますか?」
サラが訊いた。
「きゃはは。キャプテンだって。似合わねえ」
ダナとロリが同時に言った。
「しかし、一応、この船の持ち主は彼なのだし、呼び名がないと困るだろう?」
サラはきっちりと言った。
「船の針路をそちらへ向けます」
サラの言葉に男はのんびりと欠伸をしながら言った。
「そんなの面倒。無視しとけって。むさい男なんか助ける気ないし」
「キャプテン!」
サラが窘めるように言い、
「ったく。何てぇ奴」
「自己中な奴だな」
ダナとロリが呆れる。と、そこへいきなり通信が入った。サラがスクリーンに投影する。

「SOS! お願い。助けて下さい。悪い人に追われています。お願い。誰か……」
長い栗色の髪にすみれ色の瞳。まだ幼さが残るような美少女だった。
「本当に無視していいんですか? キャプテン」
サラがいい終わる前だった。彼はいきなり椅子から立ち上がるときりりと言った。
「何を言っているんだ。救難信号を出している船を見つけたら救助に向かうのは義務じゃないか。宇宙航行規則、第4条第2項にもそう明記されている」
「へえ」
「ほう」
背後でロリとダナが意味深に頷き合っている。
「では、接近し、ドッキング準備を?」
サラの質問に男はきっぱりと言った。
「いや。見ればあれは小型船舶のようだ。僕一人で十分だろう。君達はここで待機していていてくれたまえ」
「はあ?」
女達は呆れたが、取り合えず彼に任せることにした。


搭載艇ファーストキッス号で飛んだ彼はすぐにその船とドッキングした。そして、すぐさまその船のコクピットへ駆けつける。
「姫、あなたを助けに参りました。僕に任せていれば大丈夫。もう何も心配することはありません。参りましょう。僕達の愛の船へ……」
「もしかして、あなたは王子様なのですか?」
少女が訊いた。
「ええ。いつでもあなた専用の王子になりましょう」
彼女が思わず頬を染める。

「敵に追われているのですか?」
彼が訊いた。
「ええ。ほんとにしつこくて……」
座標を見ると距離はまだ大分離れていた。
「なら、お任せ下さい」
そう言うと彼はコンピュータを操作して何らかの細工を施した。
「これで悪い者は永遠にこの船を追って遠くの銀河にでも行ってしまうでしょう」
「まあ。本当にありがとう。わたしはリーザ シェルビ……いえ、リサ。ただのリサと呼んで下さい」
そう言って立ち上がると彼女はふわりとしたレースをあしらったスカーフに引き締まったエナメル質の黒のスペースジャケット。ベルトも細く薔薇をデザインした洒落たブランドの品を身につけていた。しなやかなラインが引き立って胸とヒップも絶妙なバランスで、特にウエストが美しかった。

「素晴らしい……あなたはくびれが最高だ。まるで僕の両手が君のくびれのためにあったかのようにふぃっとする……。ああ、可愛いくびれちゃん。早く僕のお船に一緒に行こうよ」
彼は両手で彼女のウエストを掴むと何度も撫でたり頬をすりつけたりした。
「あの、困ります。わたし、そんなくびれだなんて……」
「いいえ。このくびれこそ、僕のために神が造形されたようなもの。ああ。くびれちゃんは最高です!」
そう言うと彼はリサのくびれにキスすると、さっと抱えてキッシングラバー号へ連れ帰った。

そして、彼女が乗って来た船はそのまま真っ直ぐ進み、あとから追ってきた船も疑うことなくそのあとを追って行った。船のレーダーで確認した。


「ハイ。みんな、この子はくびれちゃんだよ。よろしくね」
彼が紹介すると皆はまたそれぞれ名乗りを上げた。
「でも、どうすんのよ? ここってシート4つしかないじゃん」
ロリの言葉に彼はパチンと指を鳴らして言った。
「大丈夫。そういう時のためにバーニアがある」
「バーニア?」
皆が一斉に彼の方を見た。すると彼は頷き、動力とレーダーの間にたたまれていた補助椅子を広げた。

「僕がここに座ろう」
「あは。そいつはいいや」
ダナが言った。
「なるほど。バーニアか」
ロリも感心する。
「確かに。そこからなら誰の邪魔もできないだろう」
サラも言う。
「バーニア。素敵な名前ですね」
何故か勘違いしたらしいリサが言った。

「バーニアか。なるほど。いい名前だ。よし、これから貴様のことはバーニアと呼ぼう」
ダナが言った。
「補助椅子の男か。お似合いだな」
サラも言う。
「バーニア……。そうだね。僕はいつでもみんなの補助装置でありたいからね。必要な時にはいつだって僕を呼んでくれ。この世の果てからだって僕は駆けつけるから……。ああ。僕の可愛い小鳥ちゃん達、めいっぱい僕に甘えていいんだよ。僕も4倍甘えさせてもらうから……。おしりちゃんもお胸ちゃんも太腿ちゃんもくびれちゃんも……みーんなまとめて愛してる! これからはみんな僕のものなんだ。ハッピー!」
幸せそうに笑う彼。彼女達はそれぞれ何か言いたそうにしていたが、やがて誰からとなく笑い出した。

みんなそれぞれに過去のある不思議な連中の集まりだった。が、それがいつか本当の絆になる日が来るのかもしれない……。
キッシングラバー号。
一面ピンクのコックピットで……。
また、新たな宇宙の伝説が始まろうとしていた。